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地域循環資源を活用したバーク堆肥と下水汚泥コンポストで法面緑化基盤材の全国展開を実現

化学肥料の価格高騰や安定供給への不安が高まるなか、地域に存在する循環資源を活用し、新たな法面緑化基盤材を開発した富士見工業社。緑化基盤材と下水汚泥肥料を組み合わせたこの製品は、従来の化学肥料に頼ることなく、緑化の即効性と持続性を両立。さらに現場での配合作業を大幅に省力化し、環境負荷の軽減と施工効率の向上を同時に実現している。
今回は、開発に深く関わった環境緑化事業本部 本部長 福田氏・協力工場管理部 部長 江尻氏に、プロジェクト誕生の背景や技術面の工夫、協力企業様との連携、そして今後の展望について話を伺った。

プロフィール

 

――お二人の社歴についてお聞かせください。

福田:平成13年入社で、現在23年目になります。営業職として働いてきた経験から、今の若手社員にもよく言うのですが、「商品を売る前にまず自分を売りなさい」というのが私のモットーです。現在は管理職として、事業戦略の策定から職場環境整備まで部下及びバックオフィスの協力も得ながら業務を行っております。また、従来の仕事以上に新しいことができないかと常に模索しながら、先に繋がる営業活動を続けています。

江尻:私は入社9年目になります。品質管理部、間接部門の人事を経て、現在は協力工場管理部に所属しています。当部署は一昨年に新設された部署で、主にバーク堆肥工場の協力工場様の様々な問題解決を担当しています。品質の問題、形状の問題、調達の問題など多岐にわたる課題に対応しています。特に事業承継の問題で経営が変わることによって基盤材の調達が難しくなるケースもあり、新規工場の開拓なども行っています。

プロジェクト発足の背景

 

――このプロジェクトはどのような背景で始まったのでしょうか?

福田:私が2年前に本部長になり、その前の5年間は副本部長として現在と同様の仕事に携わってきました。平成12年頃から市場規模が年々縮小していく中で、この7年は特に新たな市場開拓や商品開発の必要性を感じていました。
2023年に中期経営計画を立てた際に、新しいことを考えていくのはもちろん重要ですが、これまでのベースとなった事業をもう一度深掘りした方がいいのではないかと考えました。そこへ2022年のウクライナ侵攻が始まり、化石燃料等の原料に輸入規制がかかり、通常使用している化成肥料の価格が倍近くまで上昇。これまで全く問題なく購入できていたものが、必要な時に必要な量が買えない状況に陥りました。
その時に、当社として独自性のあるものができないかと考え、保有している下水汚泥肥料を基盤材に混ぜ込んで、肥料入りの基盤材として提供することを思いついたのです。下水汚泥肥料は人口がある限り出続けるものですので、これを有効活用することで安定供給が可能になると考えました。

技術開発の経緯

 

――下水汚泥肥料の活用については、これまでどのような研究をされてきたのですか?

江尻:実は法面緑化工事以外の緑化工事での下水汚泥肥料の活用については、約25年前から検討を重ねてきました。これは肥料取締法で汚泥発酵肥料が規格化された時期に始まり、その後、リーマンショック直前の世界的な化学肥料高騰時にも様々な検討を行いました。
当社の研究所で実際に化学肥料と汚泥発酵肥料を法面緑化に使用した場合の検証実験を行い、その結果を論文発表しています。このデータに基づき、化学肥料の代替として十分な効果があることが確認できました。

製品の特徴

 

――従来の製品と比べて、具体的にどのような違いがあるのでしょうか?

福田:現場では特殊な機械によって吹き付けを行うのですが、従来は基盤材、化成肥料、粘結剤、種子という4種類の材料を別々に現場に納入し、それぞれを適量で配合して吹き付けを行っていました。新製品では、工場であらかじめ基盤材と下水汚泥肥料をプレミックスした状態で現場に納入できるため、現場での作業が大幅に効率化されます。
また、化学肥料は水溶性で、雨が降るとほとんどの肥料成分が溶脱して流れてしまう即効性の肥料なのですが、下水汚泥肥料は即効性分を3分の1程度持ちながら、緩効性という緩やかに効果を発揮する特性があります。長い時間肥料成分を供給できる点で、植物の生育により適しています。

協力企業との連携

 

――開発にあたって、協力企業との関係はどのように活かされましたか?

福田:まず、下水汚泥肥料についてですが協力いただいている企業は井上政商店様ピラミッド様の2社です。この2社とは下水汚泥肥料を公共事業分野にて利用促進するために1997年にNPO法人日本エコサイクル土壌協会を設立したことがきっかけです。その後2004年に「建設審査技術証明書」を取得し、高品質で安全な下水汚泥肥料の供給のお陰で、さまざまな商品開発を行ってきました。そのような背景があってこそ実現できた取組です。
また、基盤材を製造してくれている協力工場の協力も不可欠でした。昭和53年に全国バーク堆肥工業会を設立し、長年の信頼関係を築いてきたからこそ、この新しい取り組みにもご協力いただけました。新規の工場だとなかなか順調にいくもでは無いと思いますが、長年の関係性があることで実現できました。
江尻:特筆すべきは、先に福田が触れた通り、この2社の品質の高さです。両社が一定の高品質な製品を作ってくれているからこそ、どの基盤材にも合わせやすく、配合量を毎回考え直す必要もありません。

市場での評価

 

――市場からの反応はいかがでしょうか?

福田:2022年から2023年にかけて化成肥料の供給が不安定だった時期には、「こういう取り組みをしてくれると安心できる」という声を多くいただきました。現在、当社総出荷量の20%から25%程度が新製品である下水汚泥肥料入り基盤材に切り替わっています。
特に施工業者からは、現場での配合作業が不要になり手間が省けるという点で高く評価されています。私たちにとっては大したことないと思っていた改善点でも、人材不足に直面している現場では、作業効率の向上が大きなメリットとして受け止められています。

政策との関連性

 

――みどりの食料戦略との関連についてはどのようにお考えですか?

江尻:みどりの食料戦略は当初、地球環境保全のため有機肥料を増進促進する方針でしたが、ウクライナ情勢やコロナ禍を経て、国内の肥料政策は経済安全保障の観点に移行しています。化学肥料原料は経済安全保障法の重要物資13品目に指定され、国内資源の活用がより重要視されるようになっています。そのため、下水汚泥肥料を使った基盤材は、持続可能で安定的な緑化工事の実現に貢献できると考えています。

現在の課題

 

――現在直面している課題についてお聞かせください。

福田:SDGsや環境保全が世界的に叫ばれている一方で、緑化事業は維持管理コストの問題から敬遠される傾向にあります。実際に、緑化工事ではなくモルタル吹付けで済ませてしまうケースが増え、世界的な環境保全の流れに逆行する形になってしまっているのです。
また、新製品は工場側の手間も増えるため、収益面での課題もあります。事業部としても化成肥料を販売した方が売上は伸びるのですが、世界情勢を考えると、この転換は必要不可欠だと判断しています。

今後の展望

 

――最後に、今後実現していきたいことをお聞かせください。

福田:25年近くこの業界で働いてきて、市場規模の縮小と共に全国20ヶ所ほどある協力工場も厳しい状況に直面しています。今回の新しい取り組みを通じて市場を活性化させ、長年お世話になってきた協力工場への恩返しとなるような市場を作っていきたいと考えています。
今回の受賞を機に国土交通省との関係性も強化できました。1社だけではどうにもならない部分もありますので、産官学の連携で市場を盛り上げていければと思います。世界的に環境保全が叫ばれているにもかかわらず、緑化事業が敬遠されるという矛盾に対しても、国との意思疎通を図りながら、少しでも変化を生み出していきたいと考えています。
江尻:協力工場の多くは中小零細企業です。1970年代からお世話になってきた協力工場との共存共栄を実現することが重要です。私たちにとって協力工場は単なる下請けではなく、ともに事業を作り上げていくパートナーです。当社が業界をリードして新しい取り組みを続け、法面緑化の基盤材の出荷量を増やすことで、協力工場の経営の持続可能性を高め、互いの持続的な発展を目指していきたいと考えています。

インタビュー
社長室 坂部 幸成

会社概要

【社名】富士見工業株式会社
【住所】〒422 – 8026 静岡県静岡市駿河区富士見台1-21-22
【URL】https://fujimi-group.co.jp/

本件に関するお問い合わせ

担当:社長室室長 山本縁
電話:054-282-2351(代表)
メール:y.yamamoto@fujimi-group.co.jp

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